冬期、東京湾のシロギスは水温低下に伴って深場に移動し越冬する。これがいわゆる「落ちギス」で、数より型狙いの季節だ。夏に数釣れる10センチほどのピンギスはほとんど交じらず、厳寒期に耐えるべく脂をたっぷり蓄えた個体が多い。そんな落ちギス釣りは腕前がものを言い、攻略した者のみが味わえる力強い引きは恍惚(こうこつ)ものである。
前半戦は小さな誘い
ところが今冬のシロギスはかなり様子が異なる。東京湾のシロギスに造詣の深い老舗、横浜本牧・長崎屋の釣果情報を見ると連日100尾を超えるビックリ釣果が続いているのだ。
これは行かねばと2月23日に車を走らせた。
絶好調を裏づけるように午前8時の出船を前に16名の釣り客が集合。長崎昭船長が舵を取る第十八長崎丸は、航程15分の落ちギスポイント、中ノ瀬を目指した。
船長に状況を聞くと、「昨夏のシロギスが例年以上によく釣れたので、全体的に数が多いんでしょう。水温が下がって深場の一定の場所に固まっているおかげで、冬でも本当に調子がいいですよ」前日トップは124尾、前々日は116尾。いやがうえにも期待が膨らむ中、水深25メートルでスタートを切った。
ほどなくして右舷ミヨシの木村さんがリールを巻き始め、「誘いを入れたらすぐ食いました。1投目で釣れちゃった」と景気のよいお言葉。仕掛けは同宿推奨の胴つき式だ。
しかしその後はポツリポツリ。しかもほんの2〜3名にしかアタらない。最初の1尾を上げた木村さんは孤軍奮闘、さすがの腕前で着々と数をのばしている。
開始から1時間、まだ本命の顔を見られない方が数名。明らかに誘い方によって明暗が分かれているようだ。「この時期は積極的に誘いを入れると食いません。ゼロテンションか少し張るくらいでエサを漂わせると食う感じ」これは木村さんのアドバイス。厳寒期らしいシロギス釣りのテクニックだ。
ここで私も竿を出してみる。10メートルほど仕掛けをチョイ投げし、着底したオモリをトン、トン……と歩かせるイメージで竿先を動かして手前まで寄せる。
エサを動かし過ぎると食いが悪いとのことなので、わずかにゆっくり竿先を動かし、ときには糸を少し弛ませてみた。誘いの間もいつもより長めに取ってアタリを聞く。
ここでブルブルッときて、すかさず合わせを入れるとシロギス特有の小気味よい引き。なるほどけっこうシビアな食い方だ。その後も同じやり方で幅広く誘うもなかなか数をのばせない。
なんとか5尾を上げたところで船中の様子を見に行くと、皆さん依然として苦戦中。そんな中で木村さんは40尾を超えたそうだ。
かなり厳しい状況に間違いはないが、最近は総じて朝の食いが悪く昼に向けて上がっていく傾向にあるらしい。

ところが午前11時を過ぎても一向に上向く気配はなく、むしろ先ほどまでアタリが出ていた釣り方も通用しなくなってきた。なんとかツ抜けはできたものの、まさかこのままで今日は終わり?
少しやり方を変えて、自分の目の前5メートルから船下までを集中的に探ってみる。するとブルブルというアタリが少し増えたのだが、同時になぜかバラシも増えてきた。
エサを食い込まないのか?なんとも正解がよく分からない。それでも少しずつ増えたアタリのおかげで再びポツポツと数を重ねていく。


落ちギス狙いのエサ付け
出船前に船長から必ず聞いておいたほうがいいのがエサのアオイソメの付け方。ハリの刺し方とタラシの長さは直近の状況によって正解が異なる。
この日の船長からのアドバイスは「今は深場を攻めているので、チョン掛けをすすめます」とのこと。エサの回転が防げるので、仕掛けの上げ下げによる糸絡みが軽減するようだ。また、エサのタラシも「5センチほどの長さにしてアピールしてください」とのことだった。
お昼過ぎからは大きな誘い
12時前後から前半苦しんでいた人たちも徐々に本命を掛け、全員がお土産になるくらいは釣っているようだ。
朝から好調に数をのばしている木村さんは、さらにペースアップ。「アタリを出す方法がハマると1投1尾になりますよ」言葉どおり次つぎに掛ける。何を変えたのかを聞くと、「アタリがなくても一定間隔で大きく合わせを入れて落としています。魚の活性が上がってきたので、大きく動かすことでリアクションバイトのように魚がエサを追ってきているんじゃないですかね」 え?朝は控えめに誘っていたのに、今は大きく誘ってるの?私の釣りにはそこに大きな落とし穴があった。同じようなやり方を続けているからペースを落としたのだ。
よくバラシていたのにも理由があった。ブルブルというアタリは魚がエサを吐き出そうとしているときに出るらしく、合わせてもバレやすい。
理想はエサを飲み込んだ際にククッとくるアタリに合わせることだが、それが分かりにくいときは定期的な空合わせが有効なのだろう。この時期のキスは一日の中でもアタリ方がコロコロ変わるのだ。

聞いたとおりに自分も実践してみると、不思議なくらい合わせが決まって5尾連発。残り30分を切って90尾を超えた木村さんは怒涛とうのラストスパート、船長の「仕舞いましょう!」のブザーと同時にぴったり100尾に届いて束釣りを達成した。
2位は67尾。そして終わってみれば半数以上が40尾以上を手にして、良型の落ちギスを持ち帰ることができた。
皆さんに話を聞くと前半好調だった人が急激にペースダウンし、前半苦しんだ方は後半に猛追した様子。この逆転劇がシロギスの活性の変化を表し、釣り方を変える必要があることを示唆している。
決して簡単に釣れるわけではない厳寒期のシロギスだが、そのテクニカルな一面が釣り人を楽しませるのだ。しかも例年以上に個体数が多いことは間違いなく、それなりにお土産確保も期待できる。今なら奥深いシロギス釣りのステップアップにも最適だろう。



◀︎ 当日の仕掛け
長崎屋はキス専用の胴つき仕掛けにこだわりがあり特製仕掛けも販売中。昔はゴロタ石などがある根周りを攻めることも多く、根掛かり対策で胴つきを使ったとか。テンビンに比べてアタリが分かりやすく、しかも手前マツリしにくい。とくに厳寒期のシロギスは居食いして動きが鈍いことも多いので、胴つきのメリットは大きい。
船宿infomation
長崎屋
▶︎料金=ショートシロギス乗合 一人8500円(エサ、氷付き)
▶︎備考=予約乗合、8時出船。アジ、ルアーシーバスへも出船